整形外科、というか全ての外科系の科では手術に伴う感染のことが気になると思います。
特に整形外科では、プレートやスクリュー、髄内釘などのインプラントを体内に入れて骨を固定します。
医学の進歩が著しいとはいえ、そういったインプラントそのものには免疫能がありません。なので、インプラントに細菌が感染すると、なかなか大変なことになります。
場合によってはせっかく入れたインプラントでも挿入に抜かざるをえない場合があります。これは最悪のシナリオですが。
抗生物質があるじゃないか、と抗生物質を手術前後に使っても、そのリスクはゼロにはなりません。
整形外科の手術の中でも特に人工関節における細菌感染はいまだ悩みの種です。
今回読んでみた論文はそんな人工関節の感染にまつわる話でした。メモ代わりにエントリーしておきます。
Current Infection Rates Associated with Elective Primary Total Hip and Knee Arthroplasty 初回の人工股関節全置換術(THA)と人工膝関節全置換術(TKA)の感染率はTHAで0.25%~1.0%、TKAで0.4%~2%である。 Historical Perspective: Investigations of the Role of Prophylactic Antibiotics in General and Orthopaedic Surgery 抗生剤の予防投与を行ったことで、感染率が8.7%から1.7%に下がった例がある。つまり、抗生剤の予防投与は有効である。
↑今やあたりまえ。
Other Measures to Reduce Infection Rates 感染予防にクリーンルーム、清潔ガウン、二重手袋を使うのは有効である。
↑これも今やあたりまえ。
Common Causes of Surgical Site Infections in Hip and Knee Arthroplasty 多いのは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)や表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)という菌種。
Prophylactic Antibiotics in Institutions with Low Bacterial Resistance よく使っているセファゾリンはグラム陽性球菌に有効なだけでなく、
骨、滑膜、筋肉、血腫への組織移行性もよい。 セファゾリンでアレルギーを起こす場合はクリンダマイシンがよくつかわれている。
Dosage of Parenteral Antibiotic Prophylaxis セファゾリンなら一回1g(体重80kg以下)、体重80kg以上なら一回2g。
クリンダマイシンなら1回600~900mg。
手術が長引くようならセファゾリンは2時間から5時間ごとに投与を繰り返すこと。↑忘れがちなので覚えておきたいですね。
Duration of Parenteral Antibiotic Prophylaxis AAOSは種種の報告から術後24時間を超えて抗生剤投与を続けることを推奨しない。長く投与することの有効性が証明されていないということ。↑この辺、年配の先生たちはいまだに受け入れられないみたいです。術後2,3日もしくは術後1週間という長い期間抗生剤を投与している先生もいます。
Changing Epidemiology of Staphylococcal Infections MRSAが増えていると。MRSAというのは抗生物質が効きづらくなった黄色ブドウ球菌の耐性菌です。
↑MRSAはやっかいです。薬がないわけではないのですが、治療に難渋することが多いと思います。
Prophylactic Antibiotics in Institutions with High Bacterial Resistance
予防的にバンコマイシンを使うことに関しては議論の余地が残る。
AAOSはβラクタムアレルギーの患者に限って使用するべきと推奨している。
もしくはMRSAの感染率が高い施設。
↑バンコマイシンがMRSAの治療薬になります。
Role of Screening for Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus 鼻腔のMRSAを除菌をしても術野の感染は減らない。
↑MRSAを保有していることと、手術部位がMRSAに感染するということは別問題のようです。
Local Antibiotic Prophylaxis 抗生剤入りのセメントは感染予防によさそうです。
↑整形外科では手術中にセメントを使って固定したりします。
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Prophylactic antibiotics in hip and knee arthroplasty. Meehan J, Jamali AA, Nguyen H. J Bone Joint Surg Am. 2009 Oct;91(10):2480-90.抗生剤の予防投与は手術中の血中濃度を高く保つことが大切。そして、術後は24時間以内の血中濃度が保てれば、それ以降は抗生剤投与は不要ということです。
セファゾリンでアレルギーを起こすなら、クリンダマイシンを使います。MRSAの発症率が高い施設では躊躇くなくバンコマイシンを使うことが必要です。
このあたりのことは明日からの臨床で使えそうです。