小説家はいかにして書き続けるか 「走ることについて語るときに僕の語ること」


12 09, 2009 | Tag,村上春樹,小説,文章力,エッセイ

走ることについて語るときに僕の語ること 
「走ること」と「小説を書くこと」のリンクの仕方に驚いた。それと、小説家に必要な資質や村上春樹さんがどのように執筆活動をおこなっているか、また、彼のライフスタイルなどが小説家ではない僕でも参考になった。



この本は小説家村上春樹さんの個人的な趣味である「走ること」についてつづった本だ。

僕は村上作品のほとんどが好きだ。彼が描く独特の世界観と一度は感じたことがあるような甘酸っぱい恋愛感情を呼び起こしてくれるから。彼の作品を読むと、見えている世界が読む前とはまるで別世界のように感じることがある。

数々のベストセラーを世に送り出した村上さんが考える、小説を書くために必要な資質は
  • 才能
  • 集中力
  • 持続力
だそう。

才能は生まれもったものだが、さらに大事なのは集中力と持続力。幸いなことにこの2つは自分の努力で伸ばすことができる。ある程度才能を補うことも可能だろう。また、継続して作品を書き続けることで才能の鉱脈を掘り当てることもあるかもしれない。

いずれにしろ、集中力と持続力が必要である。

これは小説家でなくても同じだと思う。仕事で継続して高いパフォーマンスを発揮したかったら、才能がないことを嘆く前にまず集中力と持続力を持って仕事に打ち込むことだ。


この集中力と持続力を養う過程において、走ることと小説を書くことは似ている。

走り続けることと書き続けることは、彼にとって相互補完的に集中力と持続力をキープするための必要な行為なのである。

どちらも長い道のりを、黙々と自分の設定したゴールに一歩ずつ近づき、それを乗り越えていく。誰かに勝つとかではなく、過去の自分に勝つという点で似ているのだ。

この達成感がモチベーションを生む。そうすると、これに伴って集中力と持続力も生まれるといういい循環が生まれる。


村上さんの場合は、週6~7日毎朝決まった時間にジョギングをするそうだ。そして定期的にマラソンにも参加するらしい。小説家は普通の人が感じないようなことを内面から引きずり出すことができるわけだが、それは時に毒素であるという。

この毒素に対抗するには精神的にも肉体的にも健康である必要があり、それは村上さんの場合、走ることで維持されているというのだ。例えば、思うようにいかなかった対人関係は走ることで肉体的な負荷をかけて昇華させるとのこと。


走ることは道さえあれば、場所と時間を選ばずにできることが強みである。

僕は今、走ることはやっていないけど、定期的に筋トレして筋力を維持することを自分に課している。それは趣味のサーフィンのためでもあるのだけれど、何より継続していないと調子が悪くなる気がするからだ。本書を読んで、ジョギングも悪くないなと思った。

走ることについて語るときに僕の語ること走ることについて語るときに僕の語ること
(2007/10/12)
村上 春樹

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約30年間も、走りながら質の高い小説を世に送り出し続けている著者がプライベートをさらけだして書いた一冊。

いまさらだけど、村上春樹ファンなら読むと間違いなくおもしろい一冊だろう。




「俄(にわか)」 明石屋万吉から学ぶ処世術


10 12, 2009 | Tag,司馬遼太郎,小説

著者は司馬遼太郎さん。ビジネス書ばかりではなく、たまには時代小説もいいですね。

俄(にわか)というのは路上などでやる即興喜劇のこと。本書は幕末を舞台に、主人公、小林佐兵衛こと明石屋万吉の生涯を物語にしたものです。

新装版 俄―浪華遊侠伝〈上〉 (講談社文庫)新装版 俄―浪華遊侠伝〈上〉 (講談社文庫)
(2007/06)
司馬 遼太郎

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新装版 俄―浪華遊侠伝〈下〉 (講談社文庫)新装版 俄―浪華遊侠伝〈下〉 (講談社文庫)
(2007/06)
司馬 遼太郎

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万吉の仕事は変わっています。極道を名乗っていて、彼が手がける仕事のほとんどは自分の命を危険にさらす仕事なのですが、自分からは手を出しません。殺しもしないし、盗みもしません。様々な拷問に耐えたり、やられ役に徹するのですが、それが彼の仕事なのです。

そして、それがどんなに危険だろうと彼は頼まれた仕事を断りません。困った人がいたら放っておけないのです。そこに損得はありません。本文中には彼のこと単純で理解できない行動をすると形容されている箇所がありますが、その通りです。

しかし特筆すべきは、彼のその損得抜きの行動はその時万吉を苦しめたとしても、めぐりめぐって彼を助けることになるということです。不思議なものです。


印象的だったのが鳥羽伏見での幕軍と朝廷軍(薩長軍)の戦い。

その頃万吉はわけあって極道だったのが、弱小大名一柳藩の武士となり(これも頼まれて)薩長征伐に向かうのですが、時代の流れは複雑です。圧倒的優位だと思われていた幕軍が敗戦してしまいます。情勢が変われば官軍が入れ替わります。つい最近まで幕軍が官軍だったのに、気づいたら薩長が官軍です。おそろしい。

幕軍についていた一柳藩は情勢が変わり、賊軍となってしまいます。当然征伐の対象となり、万吉も捕まるのですがわけあって彼は解放されます。

彼が解放されたのは以前に長州藩の遠藤謹介を助けたことがあったからでした。長州藩はこの以前に京都に攻め込んだことがあって、そこで惨憺たる敗戦を経験します。京都から長州に逃げ帰る者もいたわけで、彼らはその長い道中大変苦労します。捕まれば命はないわけですから。

敗残兵の中に遠藤謹介がいました。遠藤は大阪で武士として大阪の警護にあたっていた万吉に見つかります。万吉の立場としては捕まえて幕府に身を引き渡すこともできたのですが、そうはしません。自分の立場が悪くなろうとも温情をかけ、逃がしてあげるのです。そこも万吉特有の損得抜きの人情です。

お陰で万吉は幕府から長州人をかくまった罪で殺されかけるのですが、彼は自分のとった行動を後悔しません。

そして維新後、めぐりめぐって最終的には官軍となった長州軍に捕まっても解放される、という結果となるのです。


この物語の中に出てくる万吉のように、損得抜きで自分のことを犠牲にして他人のために尽くせる人間は、最終的に自分の身を助けるのだなあと感じました。

これって幕末でなくても、現代にもあてはまることかもしれませんね。自分のことを振り返ってみても、どうしても長期的、短期的に自分のためにならないようなことには近づかないようにしがちです。この物語の万吉は極端ですが、もう少し利他的になろう、と思いました。

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志賀直哉はなぜ名文か


09 14, 2009 | Tag,小説,文章力,志賀直哉

志賀直哉は文章の天才だと言われます。

志賀直哉じゃなくても世の中にはたくさん小説があって、おもしろい作品もたくさんあると思うのですが、あえて志賀直哉なのはなぜか?おもしろい小説とそうでない小説の違いはなんだろう?

そんな疑問に答えてくれる一冊でした。

志賀直哉はなぜ名文か―あじわいたい美しい日本語 (祥伝社新書)志賀直哉はなぜ名文か―あじわいたい美しい日本語 (祥伝社新書)
(2006/04)
山口 翼

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著者は「直哉の文章には、日本語の良いところは悪いところ、融通無碍(むげ)なところ、それを逆手に取った正確無比の文章、さらにそれが頭に入りやすい文章になっている。」と言います。

著者はその時代、森鴎外、芥川龍之介、井伏鱒二、吉行淳之介などなど多くの作家の全集を読み、それを元にシソーラス(類語辞典)を作った人物。最近はシソーラスもwebで参照できます。

それにしても著者の分析がすごすぎます。

本書を読むと、引き込まれる文章というものに隠された秘密が明らかになります。


その一つに隠喩の使い方があります。

前夜のことが「頭に飛びついてきた」
不安が「覆いかぶさってきた」
鋭い母の視線に「縛られたようになって」
胸に「重い鉛の塊を投げ込まれた」
「もうもうと頭に燃え燻っている」色々な考が・・

これらの表現は文章をより躍動感あふれるものにします。


また、「それが」や「それは」を使ったアクセントの取り入れや文のつなぎも秀逸です。

坂を下りると、直角に、それが富雄川だ
一月の、それは京都でも珍しい日だった


言葉を列挙することでリズム感を出したりもします。

古い土地、古い寺、古い美術、それらに接する事が・・・



最近、暗夜行路を読みましたが、その時は志賀直哉さんの文章のうまさを今ひとつ実感できていませんでした。これは、上手な文章には奇抜な暗喩や体言止めのような表現を使っても、奇抜と感じさせないうまさがあるからだと思います。私もこういう文章を書いてみたいと思いました。

志賀さんは作品を仕上げるのに、相当な推敲を行っていたようです。やはり、上手な文章は簡単には生み出せないのですね。何度も推敲すること、これは怠けずやっていきたいことですね。


表現の幅を広げるのに役立ちそうなweb版シソーラス辞典はコチラ↓
 >>Weblio|類語辞典<シソーラス・同意語辞書・同義語辞典>

本書を読んでから暗夜行路を読むとおもしろさが広がると思います。名文であることに気づきやすくなるでしょう。



このブログで取り上げた暗夜行路の記事はコチラ↓

 >>志賀直哉 【小説】暗夜行路



志賀直哉はなぜ名文か―あじわいたい美しい日本語 (祥伝社新書)志賀直哉はなぜ名文か―あじわいたい美しい日本語 (祥伝社新書)
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暗夜行路 (新潮文庫)暗夜行路 (新潮文庫)
(1990/03)
志賀 直哉

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【小説】1Q84. 村上春樹に見る小説家になるための資質


08 26, 2009 | Tag,1Q84,小説,村上春樹

完全に物語の中に引き込まれました。小説だということはわかっています。現実にはあり得ないシチュエーションなのですが、そこには実際にあり得るのではないかというリアルな世界があります。

物語とは関係なく、今回は本書を読んで気づいた小説家としての資質がいくつか書かれていると感じたのでそれを書いてみます。

おそらく主人公の一人、天吾は小説家としての村上春樹さんを投影したものになっているのではないかと思います。


1Q84 BOOK 11Q84 BOOK 1
(2009/05/29)
村上 春樹

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1Q84 BOOK 21Q84 BOOK 2
(2009/05/29)
村上 春樹

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独特の世界観を持っていること

小説を書くとき、僕は言葉を使って僕のまわりにある風景を、僕にとってより自然なものに置き換えていく。つまり再構成する。そうすることで、僕という人間がこの世界に間違いなく存在していることを確かめる。


空気さなぎやリトルピープルはどうやったら思いつくんでしょうか。1Q84の持つ世界観には圧倒されます。



技術的な面で言うと、何といってもここに尽きるようです。

細部の具体的な描写ができること

それが目に見えないものであっても、目に見えるかのように表現する必要があります。細かい的確な描写です。

優れた小説には文章の豊かな色合い、優れた音調のようなものがあります。これが1Q84にはあります。

空気さなぎやリトルピープル、どちらも存在しないものなのに、この小説を読んでいるとまるで以前から存在していたかのように感じます。そして訳のわからない存在のはずなのに、読者はリアルにイメージができます。


この技術を支えているものは何なのでしょうか?

こういうのを才能というのかもしれませんが、毎日の暮らしを言葉という断片に落とし込める感受性ではないかと思います。

教養も必要だと思います。本書を読んでいると、流行りの音楽からファッション、お酒に至るまで驚くほど村上さんの知識が豊富なことに驚かされます。私はこの本を読んでバーボンが飲みたくなりましたが、そう思わせるのは知識に基づいたリアルな描写があるからです。



質を高めるための推敲ができること

普通は言葉にならないような内的な何かを言葉にする。それは粗削りな作業で、推敲を要します。

推敲の最初の段階ではそれを文章として成立させるために、筋道を立てる必要があります。そうすると、必然的に文量は2倍以上に膨らむ。ところがこの時、論理が表に出すぎると、最初の原稿の切れ味が弱められてしまいます。

次の作業では、その膨らんだ原稿からなくてもいいところを省く。余分な贅肉を片っ端からふるい落としていくわけです。
これらの作業を交互に続けることで、振幅はだんだん小さくなり、文章量は自然に落ち着くべきところに落ち着きます。これ以上は削れないという地点。エゴが削り取られ、余分な修飾が振い落とされ、見え透いた論理が奥の部屋に引き下がる地点です。

本書では主人公の天吾と青豆、ふかえりや空気さなぎにリトルピープル、これらのファクターが見事に収斂していく様子が実感できます。

上下巻1000ページもある大作ですが、間違いなく読む価値ありです。


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(2009/05/29)
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1Q84 BOOK 21Q84 BOOK 2
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村上 春樹

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志賀直哉 【小説】暗夜行路


08 13, 2009 | Tag,小説,志賀直哉

時々こういう名作を読んでみるのもいいものです。

暗夜行路 (新潮文庫)暗夜行路 (新潮文庫)
(1990/03)
志賀 直哉

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本書は恋愛小説と言うべきか、一人の人間の心の葛藤を描いたと言うべきか。


主人公時任謙作は祖父と母の間に生まれたという特殊な出生歴を持ちます。彼はこの物語の中で様々な女性と出会っていくのですが、その中の一人、お栄という女性に恋をしてしまいます。

この女性、実は祖父の妾、ときたものですから、父を含めて家族は大騒ぎになります。ところが謙作は引こうとしません。このあたりの心理描写が一つの読みどころでしょうか。


結局、謙作は直子という一人の女性と結婚し、子供をもうけます。ところが、謙作の留守中に直子が浮気をしてしまい、これが二人を苦しめるようになります。謙作は直子のことを許しているつもりでも、直子に対してきつくあたってしまう。直子は本当に悪いことをしたと常に懺悔の気持ちを持ち続ける。

その後二人は別居することになるのですが、しばらくして謙作が病魔に倒れた時、二人は愛を確かめ合うことになります。ここで物語は終わるのですが、このあたりの揺れ動く二人の心理描写が後半の読みどころでしょうか。


著者あとがきによると、本作の主人公、時任謙作はある程度志賀直哉自身をモデルにしているそうです。登場人物の何人かは実在の人物をモデルにしているとのこと。

70年前の日本を舞台にした近代小説。今まで読んだことのなかった人はこの機会によろしければ。

暗夜行路 (新潮文庫)暗夜行路 (新潮文庫)
(1990/03)
志賀 直哉

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【小説】向日葵の咲かない夏


07 08, 2009 | Tag,小説

今日はこの前書店で手に取ったミステリー小説の紹介を。

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)
(2008/07/29)
道尾 秀介

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主人公は小学生のミチオ君。友達であるS君の死をきっかけに犯人探しに関わっていきます。登場人物には子供を偏愛する小学校の担任が出てきたり、凡庸な老人が出てきたり、しゃべる蜘蛛が出てきたりと、なかなか不可解な設定になっています。しかし、物語の後半3分の1くらいになってくると初めに物語に対して感じていた違和感が一気に解消されていきます。タイトルの意味も分かります。この辺のスピード感がたまりません。

本書の背後にあるテーマはとても深いものだと思います。人間は嫌なことが起こると、そこから目を背けたくなります。目を背けるだけならまだしも、頭の中で、既に起きた過去をねじまげようとしてしまうのです。誰でも少しならこういう経験はあるのではないでしょうか。過去を変えるために今という現実を変えようとしてしまう、行き過ぎた切ない思考が本書にはあります。

ミステリーなので、あまり内容を明かすことができなくて残念なのですが、興味を持ったらぜひ読んでみてください。



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こういう読み方もある 「小説の読み方」


05 23, 2009 | Tag,小説,読書術

小説の読み方~感想が語れる着眼点~ (PHP新書)小説の読み方~感想が語れる着眼点~ (PHP新書)
(2009/03/14)
平野 啓一郎

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小説を読む時は情景を思い浮かべながら味わって読みたいという思いがあり、あまり速く読もうとはしません。どうして小説が娯楽として広く読まれているのか?それは、読者が没頭しやすいようなつくりになっているからでしょう。

本書では、そういった小説の工夫が書かれています。


例えば、登場人物に「ブルー」や「ブラック」といった色を表す名前が使われているだけで人物に対する印象が知らず知らずに刷り込まれている場合があります。

また、小説「蹴りたい背中」の一節

「もういい。脱いだ上履きをつかみ、体育館の出口に早足で向かった。」


では、体育館の外に出ていくというアクションによって、二人の場面から一人の場面に切り替わっていく様子が目に浮かぶように表現されています。


小説「ゴールデンスランバー」では、

「道の左右に並ぶ建物から、ぽつぽつと人が出てくる。視線を上げれば、窓から外を眺めている顔も多い。」


と、この文章では主人公が視線を上げるのと同時に、読者の視線を上げる役割も担っていることが分かります。これを読んで私もたしかに視線を上げた自分がいるのに気付きました。


漫然と読んでいてもおもしろいのが小説ですが、作品としての工夫を知るのもおもしろいなと思います。

読者を作品の中に簡単に引きこんでしまう小説が、いい小説だと思います。読者を引き込ませるために、読者も気付かないような、著者のさまざまな工夫がいい小説の中には織り込まれているのですね。

また、読者に作品の中のさまざまな工夫を意識させない作品こそ優れた小説なのだと思います。今度小説を読む時は、ただ読むだけではなく、著者の凝らした工夫にも注意しながら読んでみます。




【小説】ナイチンゲールの沈黙(上・下)


02 17, 2009 | Tag,海堂尊,ミステリー,小説,医療

ナイチンゲールの沈黙(上) [宝島社文庫] (宝島社文庫 C か 1-3 「このミス」大賞シリーズ)ナイチンゲールの沈黙(上) [宝島社文庫] (宝島社文庫 C か 1-3 「このミス」大賞シリーズ)
(2008/09/03)
海堂尊

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ナイチンゲールの沈黙(下) [宝島社文庫] (宝島社文庫 C か 1-4 「このミス」大賞シリーズ)ナイチンゲールの沈黙(下) [宝島社文庫] (宝島社文庫 C か 1-4 「このミス」大賞シリーズ)
(2008/09/03)
海堂尊

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先日小説【書評】ジェネラル・ルージュの凱旋(上・下) を読みましたが、おもしろかったのでまたまた海堂作品を読んでみました。

著者の海堂尊さんは外科医を経験された後に病理医になり、現在も病理医として勤務医を続けながら作家活動を続けている方です。2足のわらじを履きながら、デビューから2年半で10作をリリースしているところが驚きです。しかも作品はおもしろい。

海堂さんの作品の特徴と素晴らしいところは小説という形で、現在の医療における問題や矛盾を社会に提示しているところにあります。それも現場で働く医療者の目線で書かれているため、私も内容にとても共感できます。


今回のこの作品では、小児癌、虐待などの小児医療、小児のメンタルケア、死因検索などがテーマになっています。死因検索は海堂さんの専門である病理の仕事ととても深い関係にある分野です。

登場人物はチーム・バチスタの栄光(上・下)から一貫しているので、海堂ワールドを楽しむためには、やはり発刊順に読んでいくのが理想だと思います。

私の場合はこの作品を読む前に小説【書評】ジェネラル・ルージュの凱旋(上・下)を読んでしまったのですが、読んでいて気付いたのは「どうも話に「ナイチンゲール」と「ジェネラル」で”かぶる”部分がある」ということでした。

それもそのはず元々これらの作品は一つだったそうです。一つの作品としては長すぎるので、分割されたのだそうです。

だから、海堂ワールドを楽しむために理想を言えば、順番どおりに読むのがいいと思います。

誤解のないように言っておきますが、小説自体は上下一冊で完結する謎解きミステリーになっているので、これ一冊でも十分楽しめます。



今回はミステリー小説なので、あまり内容に踏み込むことはやめておきます。

その代わり、海堂作品にはいつも読んでいてハッとさせられる鋭い洞察が含まれているので、その中から2つのセリフを紹介しておきます。


小児の治療には必ず親の同意が必要になります。治療や検査は同意なしに進めることはできないので、いかに親と綿密に連絡をとりあうかということも大切な点になります。

小児医療の大変さを端的にあらわす一言▼

「小児科が大変なのは、子供と親という、次元の違う生物を同時に扱うからだ」



医師の中には周囲の言葉に耳を貸さないタイプもいます。主張していることがいくら正しくても医療は医師一人でできるものではありません。看護師やその他コメディカルと力を合わせることでできあがるものです。

いまひとつ看護師と協力関係を築けていない医師に対する教授の一言▼

「君は周囲の人間の言葉に耳を傾けなさすぎる。スタッフの声に耳を傾けて総合的に判断できる、という資質こそ、医師を医師たらしめている黄金律だ。」


次の海堂作品も楽しみです。

参考記事:
メタノート:小説【書評】ジェネラル・ルージュの凱旋(上・下)
ジェネラル・ルージュの凱旋(上) [宝島社文庫] (宝島社文庫)ジェネラル・ルージュの凱旋(上) [宝島社文庫] (宝島社文庫)
(2009/01/08)
海堂尊

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ジェネラル・ルージュの凱旋(下) [宝島社文庫] (宝島社文庫)ジェネラル・ルージュの凱旋(下) [宝島社文庫] (宝島社文庫)
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海堂尊

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書評は書いていませんが、今までに読んだ海堂作品ではこれ▼が一番おもしろかったかも。

チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599) (宝島社文庫)チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599) (宝島社文庫)
(2007/11/10)
海堂 尊

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チーム・バチスタの栄光(下) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 600) (宝島社文庫)チーム・バチスタの栄光(下) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 600) (宝島社文庫)
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小説【書評】ジェネラル・ルージュの凱旋(上・下)


01 29, 2009 | Tag,海堂尊,小説,医療

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ジェネラル・ルージュの凱旋(下) [宝島社文庫] (宝島社文庫)ジェネラル・ルージュの凱旋(下) [宝島社文庫] (宝島社文庫)
(2009/01/08)
海堂尊

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小説を読んでみました。本書はチームバチスタの栄光で一躍有名になった海堂尊さんの著書です。著者は現役の勤務医(病理医)でありながら、ここ数年立て続けにヒット作を連発しています。

こういった医療系の小説は医者が書かないと、細部の表現がいい加減でしらけたものになってしまうと思います。入院後の救急患者をどこの科や病棟に振り分けていくか(ベッドコントロール)の話など、非常に現場がリアルに表現されています。次々やってくる救急患者を受け入れるためには、一旦の治療が終わると他の専門科に患者を移動させていかなければいけません。このようなベッドコントロールも医療の一面です。


小説の醍醐味はなんと言ってもそのスピード感でしょうか。おもしろい小説は時間を忘れて没頭させてくれる効果があるような気がします。私にとって本書もそのような本でした。


小説なので、あまり内容を詳細に書くことは、読んだときの面白さを半減させるので控えておきますが、本書のテーマは現在の医療が抱える問題である「救急医療のあり方」、というものです。

めまぐるしく状況が変わる救急医療の現場で、

「経営効率を重視した医療はうまくいくのか?」

「救急医療の現場で最も大切にしなければいけないこととは何か?」

という問題にメスが入れられています。



中からグッときたセリフを一部紹介します。

「救命救急の最大の敵は固定観念だ。判断は一瞬一瞬でめまぐるしく変わる。」

「救急現場ではエーアイ(死体画像検査)は費用負担ができないため、生きている患者の検査と誤魔化して保険請求してきた。おかしな話だろ?よりよい医療のための行為が認知してもらえない。そうだとしたら、それはシステムの方が間違えているんだ。そしてそれは、そうした問題を放置し続けた官僚たちの責任だ。彼らがルールを変えれば、エーアイは普及する。そうならない医療現場の現状の元凶は役所の不作為、怠慢さ」

「収益だって?救急医療の現場でそんなもの上がるわけがないだろう。自己は嵐のように唐突に襲ってきて、疾風のように去っていく。在庫管理なんて出来るわけもない。小児科も同じ。産婦人科も、死亡時医学検索も。現在の医療システム下では医療の根管を支える部分が冷遇されている。俺たちの仕事は、警察官や消防士と同じだ。トラブルが起こらなければ単なる無駄飯食い。だからといって国家は警察官や消防士に利益を上げることを要求するか?そんな彼らに税金という経済資源を配分することを、市民は拒否するのか?」

「救急や小児科、いや医療は、身体の治安を守る社会制度だ。治安維持と収益という概念は相反する。三船事務局長、あんたは無理難題をシステムの根幹に据えている。断言しよう。あんたたち官僚の血脈が目指す医療システムは、近い将来必ず崩壊する。」


小説を通じて社会に医療が抱える問題を分かりやすく提示する、とてもおもしろい小説でした。


こちらもおもしろかったですよ▼
チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599) (宝島社文庫)チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ (宝島社文庫 599) (宝島社文庫)
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海堂 尊

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海堂 尊

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海堂さんの作品でこれ読んでいなかったので、次はこれを読みます▼。
ナイチンゲールの沈黙(上) [宝島社文庫] (宝島社文庫 C か 1-3 「このミス」大賞シリーズ)ナイチンゲールの沈黙(上) [宝島社文庫] (宝島社文庫 C か 1-3 「このミス」大賞シリーズ)
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海堂尊

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女子大生会計士の事件簿 DX.5 とびっきり推理なバースデー


12 21, 2008 | Tag,山田真哉,会計,小説

女子大生会計士の事件簿  DX.5 とびっきり推理なバースデー (角川文庫)女子大生会計士の事件簿 DX.5 とびっきり推理なバースデー (角川文庫)
(2008/09/25)
山田 真哉

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本書はさおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学で一世を風靡した山田真哉さんの本です。「さおだけ屋~」がとても面白かったので、他の著作もと思い、読んでみました。

本書は最近の発刊なのですが、DX5とある通り、過去に1~4までのシリーズがあります。

会計という専門的な内容を、一般人にも分かるように解説しようという試みは「さおだけ屋~」の時と変わりません。前提として持ち合わせている言葉が同じであれば、専門的な内容を伝えるのは容易でしょう。しかし、本書のように専門的な内容を素人に伝えるのは思った以上に難しいのではないかと思います。


本書は推理小説形式のストーリーになっており、会計の話は

1.「二千円札と無敵のお嬢様」事件
内部統制に不備がある会社の監査要点(アサーション)について

2.「とびっきり推理なバースデー」事件
厳しいノルマを課せられた社員による不正・粉飾。これも内部統制に関わる部分。

3.「探しものは0パーセント」事件
海外のファンドを使った「連結外し」。
山一証券やエンロン、日興コーディアル証券やカネボウなどの事件が背景にあります。

4.「最後は本当の姿で」事件
自社株売却のカラクリ。
種明かしは自社株の売却は収入にはなるが、利益にはならないということなのですが、これはあのライブドア事件が背景にあります。

推理小説としての完成度は?な部分がありますが、こういう形で実際に起こる会計の不正操作や粉飾決済をドラマ化して読者に提示してくれている点はとてもありがたいと思います。

小説形式なもあり、疲れている時でも漫画を読むような感覚でサラッと読めると思います。


ちなみにこの女子大生会計士の事件簿シリーズはBS-iでドラマ化されたそうです。私は見ていませんが、主要チャンネルで放映されていたら見ていたかもしれません。


著者の山田真也さんのブログはこちら
『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』100万部?日記

これを見ると、なんと2009年1月8日からTBS系でも放送されるとのこと。時間が深夜2時59分かららしいのですが・・・。この時間では観るならビデオに録るしかないですね。

興味のある方はご覧ください。




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